《MUMEI》

◇◆◇

 その頃咲弥は、茂みから響く幾重にも重なり合う虫の音に耳をそばだてていた。

 賑わうその調べは、あちらこちらから絶え間なく聞こえてくる。

「ねぇ黒蝶」

「ん?」

「草薙の事、心配?」

「ん、まぁな‥。心配っていうか、ほら‥あいつ昔から覇気が強い質でさ‥。でも、それがあいつのいい所なんだろうけどな」

 そうかも知れない、と咲弥は思う。

 風が、月影を揺らした。

◇◆◇

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