《MUMEI》

◇◆◇

 戌の刻。

 月は陰り、闇の帳が降ろされる。

「‥‥‥‥‥‥‥」

 虫の音だけが、その闇から響いてくる。

「すっかり暗くなっちまったなぁ」

「本当‥」

 木犀の香りが薫き染める中、咲弥はどこか愁いを帯びた風情を感じていた。

「ん、どうした?」

 笑いかける黒蝶にふわりとした笑顔を向け、咲弥は一つ安堵の息をついた。

◇◆◇

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