《MUMEI》

「乙矢あー!

 ごめんな? ごめんな?
橋に行ってもいないから……。」

二郎は理由も聞かずに謝ってくれる。
俺よりまだ未発達な体を擦り寄せて両手一杯に抱きしめてくれる。
二郎は、俺の聖域だ。

「俺、こんなだけど許してくれ……」

二郎に心配かけて、泣かせて嬉しいだなんて最悪だ。

「何言ってんだ、
乙矢を責め立てたかった訳じゃない。

尊敬してるから……
俺の中の“そうであって欲しい乙矢”を押し付けたんだ。
ごめんな、乙矢のこと見付けられなくてごめん……」

二郎の流す涙は綺麗。

俺は二郎が絶対見付けられないと知りながら見付けて欲しかったんだ。
矛盾した感情が、あった。

二郎は俺のこと、俺よりも知っててくれる。




俺が二郎を好きなこと以外


「謝るのは違うよ……怒ってくれよ……」

俺は馬鹿だ

二郎を好きだなんて、裏切るだなんて馬鹿だ。

怒ってくれよ誰か、謝るから許してくれ……



俺は二郎に泣かれる価値が無い人間なのだ。
許しを求めても愛は求めない。

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