《MUMEI》

ヘルメットを脱ぎ、愛車の横に座り込みタバコをくわえる。

エンジンスライダーのおかげか、カウル類は思ったより破損が少ないが、前後のウインカーは割れサイレンサーは削られていた。

道に砕け散った破片を集めるとバイクの音が聞こえてきた。

俺の異変に気づいたのか、すぐ先に止まった。

白い『ズーマー』から駆け寄ってきたのは、さっきの女の子だった。
「大丈夫ですか?」
恥ずかしくて俯いている俺の顔を覗き込んだ。

俺は、ひきつった笑顔で「うん、大丈夫」と応えた。
俺の足を見て「立てますか?救急車呼びましょうか?」と言ってくれたが、「大丈夫、歩けるから」と断った。
彼女はハンカチを取り出して傷口に当て、俺の手を取りハンカチにかぶせた。

「押さえてて下さいね」そう言って、来た道を戻って行った。

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