《MUMEI》
乙矢13歳
姉貴がおかしくなった。






俺のせいだ。

帰りが遅くなったし、教育上よろしくないお友達と夜な夜な遊び歩いている。


「私の気持ちはあんたになんか分からない!」

些細な事で姉貴と言い争ってしまった。

「女の気持ちなんか理解出来るかよ!」

思い返せば、その理屈もどうかと思う。

「大人しく良い子ちゃん演じときゃいいんだよ!」

…………と、硝子の灰皿で殴られた。
その衝撃と痛みで頭がくらくらしてしまう。
だから、判断能力が狂ったんだ。

「誰が良い子ちゃんだって?今俺がヤってやることだって出来る……演じときゃ、いいからなあ。どっちが信用されるかなあ?」

姉貴を少し驚かすつもりだった。

姉貴の頬に俺の血が落ちた。



その時、姉貴はパニックを起こして自分の脈に噛みつこうとした。
始めて見た姉貴。

俺はとんでもないことをしたんだ。

姉貴は昔、会長であるジィちゃんの憎む人間に捕まったことがある。
口では説明出来ないくらい怖かったのだ。


俺はまだ物心付く前だし記憶に残っていないが、大人の男が嫌いらしかった。

それを知りながら古傷を刔るような真似をした。


「やだ、やだやだやだやだあ……!」

姉貴の両手を塞ぐ。
暴れるので二人で床を転がり、俺が組み敷かれるようになっていた。

「姉さん!」

叫んでやると身を竦め正気に戻った。



「…………私に、触るなあああああああ!」

再び転がった時に手に持っていた灰皿で殴られた。



肩と脇腹には打撲傷、
頭は三針縫った。

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