《MUMEI》

「先生・・・。」
初めの言葉が見つからず、ただ見つめていた。先生は私の熱視線に少し照れたように、隣にドカっと座る。

「さっき、雑誌で顔隠してたろ?」

「きっ、気付いてたんですか?」
私は驚いていて、隣に座っている先生の方に向き直した。

「気付くだろ、普通。おまえのお母さんも、ここに入院してるんだってな。看護士さんが言ってたよ。」

「はい・・・。」


なんだか上手く会話ができない。

「広崎・・・。」
神妙な顔つきで名前を呼ばれた。私はすぐさま「はい」と返事を返した。

「腹減らない?」
「え?」
意外なコメントに拍子抜けした。が・・・
時計を見ると、もう5時を回っていた。こんな時間になってるとは思わず、少しだけ焦る。

「こんな時間なんですね。帰らなきゃ。」

私は立ち上がった。

「帰るの?」
と寂しそうに、先生が言うので、私は首を傾げる。
それは帰らないでほしいということなのか・・・

「あの・・・?」

「今日、俺とここで会ったこと・・・皆に秘密にしてほしい。」
口止めしたくて、引き止めたのか。悔しくて、すぐに『はい』と言いたくなかった。

「先生、私そんなに口軽くないよ。」

少し怒った口調で、返事をした。

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