《MUMEI》

「…することがあるんだって」


琴子は少し寂しそうだった。


孝太が実家に帰らない事も、不安な琴子の側にいない事も、私は不思議だった。

だから、私は『一緒についてきて』という琴子の頼みを断れなかった。


この三日間、和馬は実家に連絡を入れたが、対応するのはいつも家政婦で、和馬の家族が出る事は無かったと言う。


『詳しい話は電車の中で』

私達はまずローカル線に乗り


それから新幹線に乗り換えた。


そこで、和馬はゆっくりと、家政婦とのやりとりを私達に説明した。


「…な? 喧嘩売ってるとしか思えないだろう?」


「確かに…」


和馬の言葉に俊彦は頷いたが、私は引っかかるものがあった。


(もしかして…)


私は和馬から以前渡された『ある物』の存在が気になった。


そして、そこから生まれた小さな疑問は、和馬が自分の家族の説明を始めた時に大きな確信に変わった。


和馬の家族は、『文系エリート』で


父親は、絵本作家


母親は、翻訳家


兄は、推理作家だった。


私は、和馬の父親・明日馬(あすま)ー


ペンネーム『ヤマト ユウ』の作品が大好きで、最新作を読んだばかりだった。

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