《MUMEI》

家政婦の五回目のノックと声がけの後、ようやく、和馬の父親らしき人物の『どうぞ』と言う声が響いた。

「失礼します」


私と俊彦は、家政婦に続いて書斎に入った。


『ヤマト ユウ』は文章だけでなく、挿絵も自ら描いている。


その為、広い書斎には、執筆用のスペース以外に、大量の画材が置いてある作画スペースもあった。


乱雑な作画スペースではなく、整理された執筆スペースの、パソコンが置かれた机の前の椅子に、和馬の父・明日馬さんは座っていた。


明日馬さんは、一目で親子とわかるほど、和馬によく似ていた。


『黒髪の、未来の和馬』


それが、明日馬さんの印象だった。


「伊東…蝶子さん?」


「は、はい」


私は緊張しながら頷いた。

「君の手助けで、ようやくうちの馬鹿息子は、鍵の秘密に気付いたらしいね」


「部屋の鍵って言って投げつけたのは、親父だろ!
見た目そっくりなマスターキーなんて詐欺だ!」


「落ち着いて、和馬。…話が進まない」


琴子になだめられても、和馬は明日馬さんを睨みつけていた。


「あの…二人の事、認めて…」


「もちろん、認めたよ」


(じゃあ、どうして?)

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