《MUMEI》 不通何度かけても環さんは電話に出なかった。 有理も心配そうにこっちを見ている。 「どうして……?まさかオレを避けてるとか」 「こんな記事が出たばかりだから気まずいんじゃないか?」 「……オレを裏切って、後ろめたいから?」 「流理、落ち着け。本人から何も聞いてないのに決めつけるなよ」 「だって」 「お前が不安がるのはわかる。けどさ少しくらい信じてみろよ。あっちもお前がどんな風に思ってるのかわからなくて、どうしたらいいのか困ってるのかもしれないだろ」 「うん……」 「自慢じゃねぇけど、オレ早苗のこと疑ったこと、一回も無いぜ?こんな脚になってからは尚更な」 有理はなんだか最近、急に大人っぽくなった。 兄と弟の立場逆転したみたいになってる。 ああいう脚になって、何か悟るものがあったのかな。 他人の気持ちを考えられるようになった。 優しく笑えるようになった。 お礼を素直に言えるようになった。 昔はあんなに持て余していたのに……。 今は逆に寂しい。 「今はとにかく待ってみようぜ。お前もあんまり気にすんなよ」 オレはおとなしくそれに従った。 年上だから余計に不安になるんだよ。 年上だから人生の先輩になるから、何かにおいて、必ずオレよりうまくできる。 例えば嘘をつくこと、ふたつの顔を持つこととか……。 疑えば疑う程、環さんのすべての行動が演技に思えてきて、虚しさに涙がまた出そうになった。 好きだから何でも知っていたい。 好きだから何でも話して欲しい。 喜びも悲しみも全部共有したいって思う。 自分勝手でワガママなのは有理じゃなくて、オレだ。 前へ |次へ |
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