《MUMEI》

「素敵素敵! 孝ちゃんのライバルって、君だったのね〜!」


孝子さんのテンションが更に上がった。


「俊彦です。すみません、勝っちゃいました」


俊彦は、そう言って私を抱き寄せた。


「ちょ、ちょっと!」


「いいのよ、蝶子ちゃん。綺麗になった蝶子ちゃん見たら、わかっちゃったから」


孝子さんは苦笑しながら言った。


(そんなに、違うかな?)


私は全く自覚が無かった。

「母さん」


「あ、ごめんね。今日は琴ちゃんのお祝いだもんね。
ちゃんと、しないとね」


既に着席しているワインレッドのワンピース姿の琴子に言われ、孝子さんは慌てて裕太さんの隣に座った。


そして、私達も席についた。


まず、シャンパンが開けられた。


そして…


急遽呼んだという、出張シェフが、フランス料理を振る舞った。


「蝶子さんも、琴子さんも、実に美しく食べてくれるね。

それにひきかえ…和馬!」

「うるさい!…あぁ、もう…箸とスプーンで食べる!」


ナイフとフォークの扱いに苦戦していた和馬は開き直った。


「俊彦…大丈夫?」


「…話しかけないで」


俊彦は、真剣な表情で、料理に挑んでいた。

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