《MUMEI》
記憶
翌朝。


予想はしていたが…『和馬坊っちゃんと琴子様はまだ部屋でお休みになっています』と、家政婦から説明があった。


裕太さんと孝子さんは、夕食後、隣にある自宅へ戻ったので、朝食は、私と俊彦・それに明日馬さんと真理子さんの四人で食べた。


「蝶子さんは、主人の作品は読んだのよね?」


家政婦がはこんできた食後のコーヒーを飲んでいると、真理子さんが質問してきた。


「はい。一応…」


「今月出たばかりの最新作も読んでくれたんだぞ」


明日馬さんが嬉しそうに言った。


「私のは…読んだ事、あるかしら?」


「すみません。翻訳者はチェックしてなくて…
もしかしたら、作品名なら…」


私が申し訳無さそうに言うと、真理子さんは代表作を口にした。


「あ、わかります!
あの、主人公の最後のセリフ大好きです」


「本当? あれ、悩んだのよ。直訳だと、違う感じがして」


真理子さんは嬉しそうに説明した。


「絶対、そっちの方が私は好きです」


「…ちなみに、君は」


明日馬さんの質問に、俊彦は『すみません』と言って首を横に振った。


俊彦は、和馬の兄の優馬さんの推理小説だけはわかるようだった。

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