《MUMEI》

「そうだよ、蝶子ちゃん。今は、お互いいいところしか見えてないんだ」


父が私の手を握った。


「そんな事無いです!俺達はちゃんと」


「別に、一生反対するつもりは無いのよ、俊彦君。」

華江さんは、微笑んだ。


「一年間」


そして、人差し指を立てた。


「え…?」


「一年後、またここに来なさい。
その時、あなた達が今と同じ気持ちでいたら、その時は、太郎さんも…いいんでしょう?」


「まぁ、な」


父は私の手を握ったまま頷いた。


「本当に、一年間、ですか?」


俊彦の言葉に、華江さんは頷いた。


「わか…」


「…すまないが、もう一つ、条件を追加、させてもらう」


「太郎さん?」


それは、華江さんにとっても予想外の提案だった。


「何ですか?」


「一年間の間に、…一子の家族の許可もとってくれ」

俊彦が首を傾げたので、私は『亡くなった母の家族にって事』と説明した。


「すまない、華江」


「どうして? おかしくないわよ。あの人達だって、蝶子の身内ですもの。

…でも、大変よ、俊彦君」

(そうだ…)


私の実の母の…山田家の人々は、曲者揃いだった。

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