《MUMEI》
明暗
「…で、落ち込んでるわけだ」


東京駅の新幹線のホームで再会した和馬は、俊彦を見て言った。


「あの、でもね、おばあちゃんは味方になってくれそうなのよ」


無言の俊彦にかわって私は説明した。


「ごめんね、蝶子」


「琴子?」


私が首を傾げると、琴子は和馬に寄り添って、頬を染めた。


「いいのよ」


二人は既に入籍し、和馬は『宗方和馬』ではなく、『井上和馬』になっていた。


俊彦は、悔しそうに舌打ちした。


「まぁまぁ、『別れろ』とは言われなかったんだろ?」


和馬の言葉に、俊彦は少し回復したようだが、やはり落ち込んでいた。


そして、私達は、新幹線に乗って


ローカル線に乗り換えて


小さな駅の、自動改札を通った。


「キャ〜!、本当だ!蝶子だ〜!」


駅を出た私は、見知らぬ女性に抱きつかれた。


和馬も琴子も知らないその女性の正体を


俊彦だけは知っていた。


そして、俊彦は呆れた顔で呟いた。


「本当に、蝶子で夏姉(なつねえ)が釣れた」


ーと。


そして、ようやく私を離した夏姉こと、夏樹さんの後ろで、春樹さんと瞳さんが寄り添っているのが見えた。

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