《MUMEI》

私が和馬の母・真理子さんに抱きつかれた時に蘇った記憶は


初めて私が夏樹さんに会った時のものだった。


当時、私は保育園に通っていて、仕事で残業がある父にかわり、雅彦を迎えにきた小学生の俊彦と一緒に帰る事が何度かあった。


その時、会ったのが夏樹さんだった。


夏樹さんは、昔から背が高く、初めて会った時には、今の結子さんと同じ位の身長があった。


だから、私は夏樹さんを、『大人の女の人』と認識していたのだった。


そして、夏樹さんは何故か私がお気に入り…だったらしい。


『会うたびに、あんまり抱きつくから、蝶子、途中から逃げてたから』と、俊彦が説明してくれた。


多分…


私は、夏樹さんが怖かったのだと思う。


だから、記憶に蓋をして、夏樹さんの事を忘れてしまっていたのだ。


「…本当に、帰ってくるし。俺の、今までの苦労って一体…」


「蝶子が帰って来たら、すぐ連絡してたら雅彦に先越されなかったかもね」


苦笑する春樹さんに、瞳さんがトドメを刺した。


「それじゃ…」


二人は、私を見て、頷いた。


「可愛い蝶子が戻ってきたんですもの。
私だって、戻るに決まってるじゃない」

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