《MUMEI》

「蝶子を追いかけないで、大学出とけば良かったのにね」


「だって、夢中だったから…」


麗子さんの言葉に、俊彦はうつ向いた。


「ごめんね、俊彦」


「蝶子?」


謝る私の声を聞いて、俊彦が顔を上げた。


俊彦は、地元の大学に進学が決まっていたのに…


「話、聞かなくて、…ごめんなさい」


私の誤解を解くために、俊彦は東京に出てきてホストになってしまった。


それが、今二人の未来の障害になっている。


私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「別に蝶子を責めたわけじゃなくて、俊彦が馬鹿だっただけなのよ?」


「でも…」


麗子さんの言葉に、今度は私がうつ向いた。


「「そうそう、俊彦が馬鹿なんだから!」」


祐介さんと勇さんが口を揃え、孝太も無言で頷いた。

「馬鹿馬鹿言われる筋合いはないけど…

気にする必要はないよ」


俊彦はそう言って、優しく微笑んだ。


そして…『でも…』と言う私に、小声である『お願い』をした。


他の四人の質問攻めにあっても、私はその内容を教えなかった。


…恥ずかしくて、とても言えなかったから。

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