《MUMEI》
プロローグ
…お元気ですか?

元気でやっていますか?…

もう随分昔の事

別れてから私はさほど変わりはないよ、あなたを忘れてないから

今日はあなたと最後に会ったまだ当時の面影のある街にきています

またここに来れるなんて思わなかったし
来ようと思った自分に少し驚いている

甘ったるいお茶は好きではない

でも今日はあの駅の改札をでたすぐ右にある喫茶店の甘い抹茶のラテを初めて頼んだ

絶句するほど甘ったるいまるで付き合いたての初々しいカップルのデートみたいに

そんな季節が懐かしい

ねぇ、覚えてますか…?
「だったら私はもういいから。その子の所に行けばいいじゃない」…

「だから、それはもう昔の話で…もうなんでもないから、信じて」

祥太郎さんは言った

必死だったけれど
私にはその気持ちは届いたんだか届かなかったのか…

「夏子…」
「もう、いいから」

カーステから流れる音楽には(終わった恋など捨ててしまわないとあなたの隣に居づらいから一緒に捨てに行こう)という歌詞だった

声は優しく重みがある


私はどうしても聞き入れられなかったんだ

揺れる気持ちを自分の中にも見つけていたのかも知れない

二度と会えない人なのに…

「いつかの佐原さんのお誕生日
ハッピーバースデー!!」
私は佐原さんの前では子供になれた

取り繕う事も無く笑っていたし
優しい気持ちになれた、佐原さんは時折感情をボソッと言ったがそんなやり取りが楽しかった

その頃佐原さんは実際ミステリアスな人だったけど

別に私はそれが心地良かった

私をつらくも悲しくも淋しくもさせない人だった

大人に見えた佐原さんはたいして歳の違わないくらいの単なる男性だった
私の知ってる佐原さんのことを少し話させてください

佐原さんは意外に背が高かった
すんなり伸びた手足
うつむく睫毛、切れ長の目、柔らかい髪、切りすぎの前髪
…しまわないワイシャツ、踏んずけた靴、石鹸の匂いの手、きれいに切り揃った爪
鼻にかかる[温度のある]声
優しすぎるへんてこ顔の笑顔
間の抜けた時の気の抜けた問いかけや、おっきめのスーツ
横顔はツンとしていてスッと筋の通った鼻
ずるい言葉
照れた横顔とか…

いつも傍に居てくれたけど、いつも居なかった…

それが佐原さん

私の中の佐原啓悟。31歳、ある一流企業らしいところでデザイナーをしているみたいだった

それから数年後

佐原さんと私はもう会うことは無くなった…



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