《MUMEI》

“分かってる。私がおかしいんだ…。”




私の家は母子家庭。



小さい頃から私と母と姉の三人暮らしだった…。





中学の時は太ってることがコンプレックスで、男子と話した記憶もない。




高校は女子校で、短大もクラス全員女の子だった…。




いくつかやったアルバイトも、男といえば、オジサンしかいないところばっかりだった…。




学生時代によくある、合コンや紹介は、私にはハードルが高すぎた…。




そして今の仕事は、小さな食品関係の事務員。




一日中、パソコンと睨めっこで出会いのカケラもない…。




25歳にもなって、彼氏どころか“恋”もしたことがなかった…。




こんな私ってやっぱり変?




男の人と話すだけで緊張しちゃう。




体が触れるだけで、熱くなる。




こんなこと、誰にも相談出来なかった…。




周りの恋愛話に頷いて、話を振られると、何とか違う話にもってった…。




でも、もう限界だった。
友達の悩みは結婚・出産・親との同居……。




私には理解できない内容ばかりだった…。




お風呂場で泣き続け、落ちるとこまで落ちた私は、ふやけた指先を見て呟いた。




『…こんなにシワシワの手のお婆ちゃんになった時も私は一人ぼっちなのかなぁ…?』




ピロリロリーン♪




メールだ…。誰だろう?




┏━━━━━━━━━┓
┃‐‐‐‐‐‐‐‐‐┃
┃送信者:・・・・・・・・・・・┃
┃title:こんばんは。┃
┃‐‐‐‐‐‐‐‐‐┃
┃慎吾です。    ┃
┃勝手にメアド聞いて┃
┃ごめんなさい。  ┃
┃礼チャンって子に ┃
┃無理矢理聞いた。 ┃
┃どうしてももう一回┃
┃咲良チャンと話した┃
┃いんだ。     ┃
┃良かったら電話番号┃
┃教えてくれないかな┃
┃?頼むよ。    ┃
┗━━━━━━━━━┛




礼…教えちゃったんだ…。




2時間前はあんなに腹がたったのに、今の私は投げやりだった。




すぐに慎吾クンに携帯電話をメールしてしまった。




プルルル…プルルル…




はやっ!慎吾クンだよね…。




『…もしもし。』




『あっ?咲良チャン?
マジありがとう!
めっちゃ嬉しいよ。
いきなり帰っちゃったから嫌われたと思ってビビった〜。俺の事、正直嫌い?』




『…えぇ。まぁ。…キライっていうか苦手です。』




『はははっ。正直だなぁ〜。でもそんな苦手な俺に電話番号教えた。何で?』





『…何でって言われても。』




『いやぁ〜ごめん。ごめん。咲良チャン素直で可愛いから、つい意地悪しちゃった。理由なんて何でもいいよ。とにかく教えてくれてありがとう。』




『…いえ。』




『それでね。咲良チャン。無理矢理メアドを教えてもらったのには、もう一つ理由があるんだ。』




『…理由?』




『そう。咲良チャンが急いで帰った時、スケジュール帳落としてったんだよ。
中にバスの定期券も入ってたし、早く渡してあげようって思ってさ。
実は礼チャンに聞いて、咲良チャンがいつも乗ってるバス停まで来たんだ。
出てこれる?』




『…うそ。すいません。取りに行きたいんですけど、お風呂入っちゃって…。』




『あ〜いいよ。いいよ。
風呂上がりじゃ湯冷めしちゃうだろ?
家どの辺?持ってくよ。』



『…でも。』




『あ〜もしかして警戒してる?大丈夫だよ。俺ももう眠いし、渡す物渡したらすぐ帰るから。』




“…って言われても、どうしよう。男の人が家に来る?無理だよ。私、スッピンだし…すぐ帰るって言ってるけど…。”




『…もしもし咲良チャン?どうしたの?
ごめん。寒いから早く教えてくれないかな?』




『…あっ。すいません。えっと…うちは……。』




家を教えてしまった…。




バス停から電話で話しながら慎吾クンは、うちのアパートの前に着いた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫