《MUMEI》

私はまず、瞳さん・結子さん・愛理さん・理美さんの生チョコ作りの指導をした。


これは、溶かしたチョコレートに生クリームや洋酒を加え、また形を整えるだけなので、比較的簡単な作業だった。


教わる四人も手際がよく、私はホッとした。


四人は、作業を終えると、愛理さんが持ってきたラッピング用の箱やリボンを選び始めた。


こうなると、私の出番はなかった。


私は次に、本を見ながらザッハトルテに挑戦している琴子と夏樹さんに近付いた。


「あら、蝶子。来てくれたの?」


「…ここは、心配なさそうですね」


無言で黙々と作業する琴子もそうだが、意外にも、夏樹さんもきっちり材料を測り、本に書かれた通りの作業をしていた。


「お菓子は、食べるのも作るのも好きなの。
これだって、冬樹だけじゃ食べきれないから、二人で食べるし」


夏樹さんは、ハート型の型に生地を流し込みながら、笑顔で説明した。


「…」


「焦らなくて、いいからね」


私は、まだ生地を混ぜ始めたばかりの琴子を励ましてから、その場を離れた。


それから、『クローバー』の厨房を出て、工藤家の台所に向かった。


「大丈夫? …ですか?」

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