《MUMEI》

後片付けを終えた麗子さんが、厨房に現れた。


「毎年…なんですか?」


「何年経っても成長しないのよね」


「はぁ…」


「コーヒーもらっていい?」


「あ、入れるからホールで待ってて下さい」


私の言葉に、麗子さんは『ありがとう』と言って、ホールに向かった。


私が二階に行っている間に、生チョコ組はラッピングまで終わったらしく、既に帰宅していた。


琴子と夏樹さんは、厨房のオーブンの前で話し込んでいた。


二人とも、コーヒーの入ったマグカップを持っていた。


(あそこは、大丈夫だし…)

私は、二人分のコーヒーを持って、麗子さんの待つホールへ向かった。


そして、カウンター席に座る麗子さんの隣に腰を下ろした。


「蝶子は作らないの?」


「あ、後で作ります。…場所とるから」


「俊彦に、よね?」


「いいえ、その…亡くなった母の、実家用に」


私は、山田家の人々用に、バレンタインのケーキを焼いて、送る予定だった。


私の答えに麗子さんは意外そうな顔をした。


「蝶子もいろいろ大変なのね」


私は、何も言えずに苦笑した。


そして、ふと、『も』と言う麗子さんの言葉が気になり…

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