《MUMEI》

母は待っていた。


亡くなる1ヶ月前、電話があった。


「仕事大変だと思うから、お正月は無理に休まなくてもいいよ。

帰れる時に来てくれれば、それだけでいい。」


母との電話での会話はそれが最後。


オレはいつも通りの返事をし、
正月休みに備えていた。

今まで、正月は特別な日と感じていた。


華やかなその独特の雰囲気もしかり、何よりも家族揃って食卓を囲む瞬間にオレは幼い頃から特別な美を感じていた。



小学生の頃、年賀状が届くのを今かいまかと楽しみにしていた。


何度も外に出てはポストを確認したものだ。

「いつになっても変わらないな。」


毎年恒例になったオレの行動を見て、
父はそう言い笑っていた。


いつになっても変わらないものが沢山あった。


それが、


全ての日常の風景。


いつになっても変わらない。


それらの、

1つ1つが、変わり果てていく。


自分の意志とは関係なく。


大切なもの程、


いとも簡単に。

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