《MUMEI》

会場内に献花された菊の花が美しかった。

早入りの親族達が集まり出し、
会場は俄にざわめき始める。

オレは親族達1人1人に挨拶を交わし母の眠る棺へと歩みよる。


眠る母はいつもの寝顔でオレを待っていた。

頭には大きな布が巻かれている。

キズを隠す為であろう。

それでも、
母には生きている時と同じ様な、
真っ直ぐな力強い鼓動を感じた。


「遅くなってごめん。いま、帰ったよ。」


御前に線香を手向け、

手を合わせるとヒリヒリと胸が痛み出す。


今日は絶対に悲しい顔はしないと、自分自身に言い聞かせてきた。

今まで迷惑かけてきた。

好き勝手な事もしてきただろう。

散々心配ばかりかけて、

オレは何を残してきた?

オレがしてきた事にどれだけ正解があった?

決して起きる事のない母の頭上、
今よりも少し若い母の写真が迷いのない笑顔で見守っていた。

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