《MUMEI》

窓際の最後尾の席に座る一人の少年。彼は、つまらなそうな表情で窓の外に広がる景色を眺めていた。

「……汚い」

不意に、そっと言葉を漏らす。しかし、その呟きが少年自身以外の誰かに届くことはなかった。

丁度、時を同じくして

「どうかしたか、成瀬? 顔色が、悪いように見えるが」

と言う声が、少年の声へと被さり、見事に掻き消してしまったからである。

成瀬、それは少年の名前であった。

成瀬零(なるせれい)──それが、この少年の名前だ。

「────いえ、少しボーッとしていただけです。体調は、特に」

零は立ち上がり、感情のない事務的な口調でそう告げると、再び席に着いた。

「そうか、まあ、もし気分が悪くなったりしたら遠慮せずに言ってくれよ? 一番大事なのは、勉強なんかよりもその身体なんだからな」

そう返し、杉谷は授業の続きに戻った。

しかし、その言葉はもう既に、零の耳には届いていなかった。

「…………汚い」

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