《MUMEI》

 「縁側で日向ぼっことは、相も変わらずジジくさいな。雪月」
翌日、言葉通り縁側にて日に当たっていた雪月へ
彼を訪ねてきたらしい男が苦笑交じりに声を掛けてきた
言われた事に対し多少の引っ掛かりを感じはしたが、敢えて追及することはせず
何用かを問う
「時雨こそ珍しいですね。貴方がここに来るなんて何かあったんですか?」
「あ?まぁ何事もなけりゃテメェのトコには来ねぇよな」
さも大儀そうに、相手・奏間 時雨は呟きながら、雪月の隣へと腰を降ろした
相変わらずのその物言いに雪月は苦笑を浮かべながらも茶を勧めてやる
「で?一体何があったんですか?」
改めて用件を問うて質してやれば
奏間は表情を微かに強張らせ、湯呑を下へ置く
「……お前、沙羅双樹って名、聞いたことあるか?」
聞かされた名
聞き覚えがありすぎて、雪月の手が微かに反応を見せた
「知ってる、みてぇだな。ホレ、知ってること全部吐け」
との要求に
雪月は取り敢えず今までの経緯を時雨へと説明してやった
「死人を従える女、か。物騒なのが世の中にはいるもんだな」
「ええ。今はまだ大した実害はありませんが、これだけで終わるとは到底思えません」
「成程」
「それで時雨。あなたはどこで沙羅双樹の事を?」
「いやな。昨日、知り合いのとこの小倅が来てな。何でも親父がその沙羅双樹って女と蒸発したって」
「蒸発……」
「その小僧曰く、その女はヒトじゃねぇって。ソイツ昔からそういうのだけはわかる奴だからな。何が起こるとも限らんだろう」
「そう、ですね。時雨、その子は今何所に?」
合わせてほしいのだ、との雪月に
時雨は自宅の方を指で差す
どうやら時雨宅に居るらしいその子供に会うため、雪月は草履を突っかけ外へ
「いいのか?お前の大事なお嬢様放ったままで」
「大丈夫ですよ。雪乃は、そんなに弱い子じゃないですから」
雪乃を気に掛ける時雨へ、雪月は穏やかに笑んで向け
言い切る彼に、何を言い返す事も出来なくなったらしい時雨は軽く肩を揺らし歩く事を始めて
その後に、雪月も続く
向かう先は奏間の集落だ
「より子、坊。帰ったぞ」
時雨は自宅の表戸を手荒く開き、草履も適当に脱ぎ散らかすと家の中へ
広々とした座敷へとはいって行けば
そこには少年と少女、その二人の姿があった
それまで穏やかに談笑していた少年の表情が、時雨の姿を見るなり消えて失せた
「……そんな面すんな。俺からはもう何も聞かん。だが最後に、これで本当に最後だから、コイツに事の説明をしてやってくれないか?」
若干困った風に頭をかき乱しながらの時雨
その様子に、雪月は緩やかに歩んで距離を近くすると少年の前へと片膝をついた
「辛い事を聞いてしまうようですいません。ほんの少しでいいんです、沙羅双樹という女の事について」
沙羅双樹の名を聞いた途端、少年の顔が更に暗いものになっていく
だが、ゆるりと話す事を始めてくれる
「……アイツは親父を連れて逝った。あの女は、人じゃない」
床へと視線を落したまま、少年は呻くように呟いて
連れて逝った、と妙な言い回しをする
時雨の方へと首を巡らせて見れば、時雨も意味が理解できていないのか、両の手を上げて見せた
「もう、いいだろ。より子」
少年は強制的に話を打ち切ると、より子の手を取って
逃げる様にその場を後にしていた
「……あの坊主の親父が他所の女に入れ込んでるって噂はきいたことがあったが、まさかその女とはな……」
「あの女の目的はヒトを滅ぼすことです。このまま放って置く訳にはいきません」
「坊の親父を殺すことになっても、か?」
時雨からのその問いに、雪月は答える事をしなかった
苦笑を僅か浮かべながら
帰ります、と雪月はその場を後にしていた
帰る道を歩きながら
何一つ進展のない現状に、雪月は珍しく舌を打って
脚を止めると両の手で髪を掻いて乱す
「悩んでいる様だな、雪月」
真後ろからの声
肩越しに伸びてきた刃に喉を撫でられ、だが雪月はうろたえる事はしなかった
髪を乱す手を止めると、相手は一方的に話す事を始めた
「……雪月、全ては最早手遅れだ。お前も大人しく花に葬られるといい」
「訳も分からずに殺されろとでも?笑えない冗談ですね」

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