《MUMEI》

僕は、おとぎ話のワンシーンのように、溢れる涙を彼女の頬に垂らし、生気の失われた唇に口づけた――…。



そうすれば、カオリちゃんの眼が開くのではないか――…


僕はそんな気がしたというだけで、妻や旧友らの見守るなか、恥ずかし気もなくカオリちゃんに愛の言葉を囁き続けた…。



大切な人を失った人間というのは、時として有り得ない希望や幻想にすがろうとする――…


この時の僕も、0%の希望に全てを賭けることをためらわなかった…。



たとえそれが全てを失うことに繋ろうとも―――………。

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