《MUMEI》

「二郎……」

嗚呼、意志弱い。
自重出来なかった。
ばったり会うなんて思わなかったし。

「乙矢ご飯食べてくよな?」

「えー、俺のおかわり減るじゃん!」

まあ……馬鹿七生もいるから平気だろう。
七生の親父が帰り遅いと二郎の家で食べてたっけ。
昔はそれが羨ましくて仕方が無かった。

でも七生には家族揃って食べる俺の方が羨ましかったのだ。

実質、両親は忙しかったし姉貴は俺がいるとイラついて空気が張り詰めて食事はまともに出来なかった。
俺は家族団欒なんて覚えていない。

互いに無い物ねだりをしていたので、七生と喧嘩することは条件反射みたいなものだった。


「あら、乙矢君いらっしゃい。」

二郎と同じ唇の形で心地良く笑う。

「乙矢も食べてくってさ。」

これが欲しかった。

詰めながら地べたに座り一つの食卓を囲む、そういうのが絵に描いたような家族というものなのだろう。

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