《MUMEI》

「…恋人の、…フリですか?」


麗子さんは首を横に振った。


「うちの親もいるのに、それはできないわよ。

…偶然を装って待ち合わせ場所に現れてもらって、私が『あの人が好きだから、ごめんなさい』って言って…

終わり」


「…大丈夫だったんですか?」


それで、皆納得したんだろうか。


「まぁ…何とか」


麗子さんは苦笑した。


「でも、孝太が暇で助かったわ。

年末だし、実家に帰るかと思って心配だったのよね」


(…え?)


「…蝶子?」


私が不思議そうな顔をしたので、麗子さんが私の顔を覗き込んだ。


「どうか…した?」


「麗子さん」


私は、確かめたい事があり、麗子さんに、見合いがあった日を訊いた。


「十二月二十八日だけど?」


「その日は…

琴子と和馬さんが、和馬さんの親に、挨拶に行った日です」


「えぇ?!」


麗子さんの声に、今度は、琴子と夏樹さんが気付いた。


ザッハトルテを仕上げ、ラッピングも済ませた二人は、厨房からホールにやってきた。


そして、私は、琴子に、孝太が何と言って、その日、実家に戻らなかったのか、確認した。


「嘘…」

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