《MUMEI》

麗子さんが、信じられないというように、呟いた。


「…兄さんは、『大事な用事がある』って確かに言いました」


琴子はもう一度同じ言葉を繰り返した。


「妹の、大事な時に…
私の、頼みを?」


「片想いって聞いてたけど、望みあるんじゃない?」

夏樹さんがニコッと笑った。


「だって…孝太は」


麗子さんは、私を見つめた。


「「蝶子はもう俊彦のものでしょ」」


無言の私のかわりに、琴子と夏樹さんが声を揃えて答えた。


「…とりあえず、明日は、お礼って事で」


麗子さんは、冷めてしまったコーヒーを飲み干して、帰って行った。


「うまくいきそうな感じしない?」


夏樹さんの言葉に、私と琴子は頷いた。


その時。


「「できたぁ〜」」


厨房から、咲子さんと薫子さんの疲れきった声が聞こえた。


…そろそろ日付が変わろうとしていて、私は慌てて厨房に入り、クラシックショコラを作り始めた。


薫子さんと琴子は、タクシーで一緒に帰り


疲れ果てた咲子さんは先に休んだ。


「これで許してもらえるといいわね」


焼きたてを試食した夏樹さんの言葉に、私は苦笑した。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫