《MUMEI》 ピンポーン♪ “…来た。” 『…はい。』 私は恥ずかしかったので、顔を隠すように、うつむきながら出た。 『こんばんは。咲良チャン。』 やけに笑顔の慎吾クンの顔が気になった…。 『…こんばんは。あの〜、本当にわざわざすいませんでした。』 『ははっ。どういたしまして。スッピンの咲良チャンも可愛いね。 はいこれ。定期券。』 『…どうも…ありがとうございました。』 そう言ってドアを閉めようとすると、慎吾クンが甘えた声でドアに手をかけた。 『ねぇねぇ〜咲良チャン。悪いんだけどさぁ〜寒いからコーヒーを一杯ごちそうしてくれない?』 慎吾クンは、玄関先からグイグイと足をにじり寄せてくる。 『…えっ?…でも。』 “すぐ帰るって言ったじゃん。嘘つき。これじゃドア閉められない…。” 『ダメかなぁ〜?』 “そんなの、ダメに決まってるじゃん。” 『…あの〜今日はもう遅いんですいません。…また後日お礼しますから…。』 私がそう言って、無理矢理ドアを閉めようとすると… ガタンッッ 慎吾クンは力任せに家の中に上がり込んできた。 『ちょっと困ります!帰ってください!!』 『…いいじゃんちょっとくらいさ〜。言ったよねぇ。俺、咲良チャンに一目惚れしちゃったんだってぇ。』 “…怖い。慎吾クンさっきと話し方も雰囲気も変わってるし…。” 『…かっ…帰ってください。…帰ってくれないなら…警察呼びますよ……。』 怯えながら携帯を手にするといきなり慎吾クンに押し倒された。 『キャッッ。』 慎吾クンは私の両腕を掴み、またがったままキスしようと顔を近付けてくる…。 私は、必死で顔を反らし何とか避けた…。 『…怖い…怖いよ………やっ…やめて。助けて。』 震えた声で、そう言うと涙が止まらなくなった。 そんな私の姿を見て、慎吾クンはゆっくりと手を離し、私から離れた…。 『…なんなんだよ?マジで嫌がることねぇじゃん。…泣くなよな。マジ引くわ。もういいよ。』 慎吾クンは帰っていった。 急いで玄関の鍵を閉めて、私はそのまま崩れ落ちた…。 …ウッ……ウッ……。 また泣いた。 もうこんな私イヤ。 怖かった…。 初めての経験…。 男の人に押し倒されたなんて…。 前へ |次へ |
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