《MUMEI》 ◇◆◇ 突如草薙が立ち止まったので、黒蝶は俯いていた顔を上げた。 「‥‥?」 小さな人影が、こちらへと向かって歩いて来る。 「咲‥弥‥?」 長い髪、紫の瞳。 紛れもない、その姫であった。 「咲弥‥っ」 動けずにいると、咲弥は黒蝶、そして草薙の元へ歩み寄り、その場に膝を折った。 「おい、大丈夫かっ?」 その言葉に、咲弥はただ頷く事しか出来なかった。 放すまいと、黒い裾を掴んだまま。 吹いた風が、遠い庭から甘い花の香りを運んで来た。 ◇◆◇ 前へ |次へ |
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