《MUMEI》

◇◆◇

 邸に戻った二人は押し黙っていた。

 黒蝶は無意識に咲弥のいない帳の向こうを見る。

「‥‥あれ‥」

 黒蝶が何かに気付いた。

「どうした」

「何だろ‥」

 黒蝶は咲弥の使っていた文机に近付く。

「これ、咲弥の‥」

 置かれていたのは日記。

 そしてその上に、一輪の花が添えられていた。

「この花‥」

「‥‥姫君からの餞だ」

「咲弥の‥?」

 黒蝶はその花を手に取り、見つめる。

◇◆◇

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