《MUMEI》
夏休み。
  
今日はこの双子のお兄様である克哉さんのお迎えに空港まで行くというのでかなたの寮の部屋に行ってみると、朝から二人でドタバタしていた。

「はるちゃ〜ん、どっち着た方がいいかなぁ?」
「制服でいいじゃねぇかよ、俺は制服着るぜ」
「で〜も〜ι」
「……」

どうやらドタバタしてるのはかなただけで、はるかは鏡の前に座って何か思う事があるのかジーッと考え込んでいるようだった。


「武は二回目だね、兄ちゃんに会うの」
「そうだな…」

以前日本に来ていた時に、たまたまかなた達と俺が一緒に居たのでそこで一度だけ会った事があった。

すらりと背も高く外国人特有のマッチョな体格をしていて、その辺は双子と全く似ても似つかないような外見。

髪は双子と同じような金髪でどっちかというとはるかに似たストレートヘアをオールバックにまとめていた。

俺はその威圧感からかなたの横というか後ろに立ってなるべく視線を合わせないようにしていたが、やっぱり刺すような視線を感じて横目で恐る恐る見てみるとシルバーのメガネの奥でかなたと同じ様な碧い目を光らせ、俺を見定めているようだった。

お兄さんは学生時代、俺達と同じくこの学園に通っていて生徒会の会長をやっていたらしい。

(今のぼんやりとした会長とは大違いだな…記憶にも残ってねぇ…)

その華やかな外見とドイツ人特有の頭脳明晰さと生真面目な性格で、数々の伝説を残した人でもあった…。

それに、俺が今入っている新寮だってお兄さんの提案で出来たらしい。

(学生自ら寮作っちまうって、どういう事なんだよ…)

自主自立自活という号令の元だったらしいんだが、今の俺に至ってはかなたに飯作ってもらってるから自活も何も無いんだけどな。

それと…本当なのかは知らねぇけど、噂では”教師を食った”なんて話もあるくらいだった。

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