《MUMEI》

「どうしたのはるちゃん?」
「シッ…」

そう言って眉間に皺を寄せながら口の前に指を立てると、隣の部屋を指さした。

隣の克哉さんの部屋から何やら話し声がしてきたというので、俺達はじゃれあうのを止めてはるかと一緒に壁に耳を当てて隣の様子を伺った。

「よく聞こえねぇ…」
「誰だろ…聞き覚えはないけど…」

はるかは部屋にあったコップを持ってくると、しばらく聞いた後かなたに渡していた。

かなたはベッドに乗ると、そのコップを手に壁に耳を当てて隣からする音を熱心に聞き始めた。

「…若い男の人だね」
「連れ込んだのか…さすがだぜ克哉さん」
「ただのホテルのボーイだと思うぞ…」

俺もかなたからコップを受け取って聞いてみると、かなたが言うように聞こえる声はホテルのボーイっぽい喋り方だった。

「何だ、普通にボーイさんが来てるだけかぁ…」

かなたの頭を撫でてコップを渡すと、しばらくしてかなたが慌てて頬が赤くなった。

「え…ちょ…にいちゃ///」
「どうした?」

俺もはるかも壁に耳を当ててじっくり聞いてみると、バタバタと暴れているような音が聞こえて、かすかに克哉さんではない方が声が慌てながら「やめてください」とか「ダメ…」だとか何とか言っているのが聞こえてくる。

しかしそこは克哉さんで、しばらく聞いているとそのボーイさんとなんとなくいい雰囲気になってきていた。

= = = = = = = = = = = = = = = =

「あっ…やめて下さい…」

戸惑う彼の足下に膝まづくと、まだ少々大人になりきれていない男性的というよりはまだ少年のような幼く美しい手にキスをして、そっと両手で包み込んだ。

「一目見て…キミの事が忘れられなくなった…」

包み込んだ手に力を込める。

「キミの事、愛させて欲しい…」

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