《MUMEI》

「あれ?もしかして、知らないの?」


私の質問に、夏樹さんは意外そうな顔をした。


そして、首を傾げる私に、『シューズクラブ』のバレンタインについての説明を始めた。


『シューズクラブ』は、開店して初めてのバレンタインは、お客からのチョコレートを普通に受け取った。

が…


あまりの多さに、一日では食べきれず


かといって、人に譲ったり、捨てたりすることもできず


毎日食べ続け、完食したのは三ヶ月後だったらしい。

そして、次の年からは…


「白い、バラ…ですか?」

夏樹さんは頷いた。


「でも、…部屋が埋まりませんか?」


私はバラいっぱいの部屋を想像した。


すると、夏樹さんが『違うわよ』と言って笑った。


「あげるのは、『シューズクラブ』の四人よ」


「お客様に…ですか?」


夏樹さんは頷いて、『そろそろ上がりましょう』と言った。


私は頷いて、湯船から上がった。


話の続きは、私の部屋でする事にした。


私の部屋を見た夏樹さんは、予想通り、乙女な内装に驚いていた。


「俊彦がね、『自分の誕生日には、お祝いよりも愛を込めてバラを贈りたいんです』って言ったのよ」

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