《MUMEI》 その女性は、去年 運動会で、俊彦にキスした女性だった。 「…」 「こんにちは」 俊彦と一緒にいる女性は、『シューズクラブ』の入口の前を通り過ぎる私を、ただ無言で見つめていた。 私が裏口から入ると、俊彦がやってきた。 そして、耳元で嬉しそうに… 「蝶子があんまり綺麗だから、『あれなら仕方ないわね』って言ってくれたよ」 と囁いた。 そして、『彼女が認めれば、もう大丈夫』と言って、私を抱き締めた。 (嬉しいな…) 私は、俊彦と二人で二階に上がった。 既に、他の三人は、『クローバー』に行く準備を終えており、私と入れ違いで、『シューズクラブ』を後にしていた。 「それにしても、…本当にこれで良かったの?」 私が俊彦の希望の ホットチョコレートをマグカップに注ぐと、俊彦は嬉しそうに頷いた。 「あれ? そのマグカップ…」 「一応、これも、プレゼント」 私は、『アニバーサリー』で買った真新しいマグカップを使っていた。 実は、これと対になるカップを私は工藤家で使っているのだが、恥ずかしかったから… 俊彦には、内緒にしておいた。 「熱いから、気を付けて」 前へ |次へ |
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