《MUMEI》
バカげた涙
何も変わらない。いつもと同じ。ただ一つ。君がいない。
―――変わり果てた姿に愕然と肩を落とす訳でも無く、大粒の涙を床にたたきつける訳でも無い。俺の心は無心だった。悲しみよりも先に、憎しみよりも先に、怒りが沸いて来た。アイツに対する怒りでは無い。己に対する怒りだ。己の無力さに一人怒りに震えていた。――――――――――――
あの日、俺の大っ嫌いなアイツと二人でいたよね。冷静なフリして。無関心なフリして。そんな男を気取っていた俺を許して?
君は、ずっと近くにいたけれど、俺にとっては物凄く遠かったんだ。
ずっと黙ってたけれど、俺の特技は何でも君が関係してたんだよ。例えば、何処にいても『君』を見つけることが出来る。――これはマジだ。――んで、『君』のイイ所が全部言える。――これもマジだ。――
まず、気取らなかったとこ。
あと、相手の気持ちになれたとこ。
自分の能力なんて考えないで友達を助けちゃったとこ。
それに、最後まで決して折れなかった心。
本当にちゃんと好きだったんだよ?いや、今でもちゃんと好きだ。
でも最低だ。ほんと、俺はバカだ。君が死んだって聞いた時、一粒も涙を流すことが出来なかったんだ。ほんと、バカだ。あんな事で泣いて、いざという時に泣けない。
バカな俺を許して?
――――いつの日だったか。俺がまだ恋のカケラも、君に対する、愛の感情のカケラも知らない時の出来事だった。当時の俺にとっては、絶望っていう字が見えそうなくらい、ショックだった。俺の両親は早くに離婚した。その原因は俺だ。付き合って間もない若いカップルに、俺という赤ちゃんが出来た。「お腹に赤ちゃんがいます。」医師からそう決断されたときは、飛び上がって喜んだ、若いカップル二人。母親になるというプレッシャー。父親になるというプレッシャー。母親になるという大きな使命。父親になるという大きな使命。母親になるという事で、どうしようもなく押し寄せてくる責任感。父親になるという事で、どうしようもなく押し寄せてくる責任感。……曖昧な二人の想いが重なり合う前に赤ちゃんは生まれた。今まで悩みが渦を巻いていた頭の中には、感動。それしかなかった。それと同時に、金銭問題も混ざり、不可解な感情すら浮かび上がって来た。それでも、若い父親は必死に働き、若い母親は必死に赤ちゃんを育てた。必死に。必死に。死に物狂いで。だが、その必死さが災いを起こした。二人の思いはすれ違い続けた。
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