《MUMEI》 仕事この間、『春日有希』のCDで初めて詞を書いた有理は、その詞が評価を得て、作詞家として活動を始めることになった。 本名と春日有希とは全然違うので、本名での活動をするという。 「やっぱオレって才能あふれる男だよな。芸能人の次は作詞家だぜ?自分が怖いよ」 「はいはい。たった一回採用されたからって調子乗ったらダメじゃん」 「じゃあ二回目も採用されたら調子乗っていい?」 「もうすでに調子乗ってるだろ」 有理は気分を害したのか、そっぽを向いてしまった。 「……またいい詞書いてくれよ」 さすがに恥ずかしくて目を見ては言えなかったけど、有理が頬を緩ませたのがわかった。 「……ああ」 *** 「また映画の仕事だけど、学校の方は大丈夫かな?」 「どんな映画ですか?」 マネージャーはかなり躊躇った様子でため息をついた。 「有希の中でどんな風に感じるかはわからないけど……結構挑戦なんだ」 「言ってください。オレはどんな役なんですか?」 「……同性愛者だよ。日本ではあまり受け入れられていないから有希も…」 「どうしてオレにこの話がきたんですか?」 マネージャーは一冊の本を取り出した。 「原作だよ。作者の方は実際に同性愛者でね、ノンフィクションなんだ。リアルに感情や実際問題が記されている。……有希になぜこの話がきたのかはわからない。ただ、指名されたことは確かだよ」 「誰にですか?」 「作者」 「…この本借りてもいいですか?」 ――同性愛…か。 どう思うか、と言われてもわからない。 多分、今まで出会ってきた人の中にはひとりくらいいたかもしれない。 きっとそういう気持ちは心の奥に閉じ込めて、普通に振る舞っている人がほとんどだろう。 アメリカでは結婚する人がいたり、ヨーロッバでもそういう通りがあるという。 なんで日本だけこんな風に扱われるのかな。 前へ |次へ |
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