《MUMEI》
ネコだ!
「――――――」

「こっち…」



一人暮らしにしちゃめちゃめちゃ豪華なマンションに俺はただ唖然とする。




だから腰に腕を回されている事とかきつく引き寄せられている事とか、長沢がやらしい眼で俺を見下ろしている事実にはてんで気がまわらなかった。





思わず促されるままエントランスをくぐりエレベーターに乗り込む。




するとエレベーターの表示が18階まであるわ全面硝子張りだわで



「何階に住んでんの?」



と、既に長沢が階へ通じるボタンを押して更に動きだしているのに間抜け丸出しで尋ねてしまった。

「―――うん、12階」



「――へ――――」




――まさか自宅の家庭用エレベーターとは格が違う。



――まあ俺ん家も豪華だけど?でもあれは俳優である兄の陸ちゃんが建てた家であり俺の所有物じゃない。



漠然とだけど大学出たらちゃんと自立してあの家は出なきゃいけないって思っている。


だって陸ちゃんだっていつ嫁さん貰うか分かんないし、いつまでも陸ちゃんに甘えっぱなしなのは良くない事だと思っている。

「どうぞそこに座って?」
気がつけばリビングに俺は立っていた。
中は意外と狭くて雑然としていた。

ちょっと色褪せたソファに座ると長沢はグラスを持って現れた。



「最近忙しくて掃除してなくてさ、汚くてゴメンね?」


俺は素直にグラスを受け取り

「いや、何処んち行ったってこんなモンだし…、まあこれだけは嫌かもだけど」
ソファの脇をちらりとみながら言う。

だってティッシュが丸まったのが無造作に置いてあるんだもん。

――なんか…、だってこれって怪しいじゃん。

長沢は何でもなさそうにそれん掴みテーブルの下のゴミ箱に入れた。


――思わず眼に入ったゴミ箱の中身…
ソファにあった様な丸まったティッシュがぎゅうぎゅうに入っている。

長沢はそんな俺の視線に気づいたのかゴミ箱を引っ張り出し持ち上げた。

「――エヘッ!これ全部聖の事考えて出した残骸!」




「!!!テメエ!!」



長沢はそんなバカっぽい台詞とは裏腹に無表情だった。




つかこいつあんまり表情変えないから怖い!



俺は半分飲んだグラスをバンッ!とテーブルに置くと

「やっぱ帰る!」



勢い良く立ち上がりちらりと長沢を睨みつけると、スタスタと玄関に向かった。
「――帰ってもいいけど途中で歩けなくなるよ?」

「は?」



思わず振り返ると、ゴミ箱を大切そうに抱えながら少しだけ笑みを浮かべる長沢がいた。




――つか眼は笑ってないけど。


「――媚薬…」

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