《MUMEI》 大切ナモノ「ねぇねぇ、春日くんが次の映画クランクインしたんだって〜」 「すっごく楽しみだよね!」 「……知ってる?春日くんの今回の役」 「何?そんな…微妙な顔してさ」 「嫌なの?」 「嫌って言うか……春日くん……同性愛者役なんだよね」 「え?何それ。マジ?」 「え〜なんでそんな仕事引き受けちゃったんだろ」 ――やっぱりそんな反応なんだな。 どこまでリアルに表現するかは聞いてないけど、この映画に出ることによって、春日有希の人気は落ちるのか? 「それは流理の映画に対する気持ち次第だろ。ただ興味本位でやったんだったら、確実に叩かれる」 そう有理は言うけど、実際、オレは同性愛というものに興味がある。 他に何かあるかと言われれば、特に無い。 「だから、今は興味しかなくても、やっていく内に考えが変わるはずだ。それが一番好ましいけど……やっぱり流理次第って訳」 変わるかな? その人の気持ちになって、感情移入していくにつれて……。 とにかく引き受けたからには、やる。 結果、世間からなんと言われたって構わない。 理解できないことを理解するためにオレはやるんだ。 *** 「有希、こちらが原作者の宝井大輔さんだよ」 「は、初めまして!春日有希です」 第一印象は優しそうな人、だった。 見た目はやっぱり普通の人。顔は整っていて、女子にモテただろうなと思う。 この人はつらい過去を持って、生きてきたんだ。だからこんなに優しい瞳なんだろう。 たくさん傷付いて、たくさん悩んで、たくさん泣いたから……。 「引き受けてくれてありがとう。断られると思ってダメ元で言ったんだけど、まさか引き受けてもらえるなんて……」 「いいえ、こんな仕事をオレにくださって、こちらこそありがとうございます」 「難しい役だけど、君なら何か大切なものを伝えてくれるような気がするんだ」 「何か……大切なもの?」 宝井さんは笑っていた。見守られているような気がして、安心する。 「……頑張ります」 前へ |次へ |
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