《MUMEI》 「行くのかい?奴の所へ」 背にj向けられる問い掛け 僅かに首だけを振り向かせてやると頷いて返した 「随分と穏やかな顔だねぇ。アンタ、死ぬかもしれないんだよ?」 穏やかな声色で死の可能性を突き付けられ それでも雪月は表情一つ変えることは無い 唯、守れればいい 笑みすら浮かべてむけ、そして後の事は頼む、と言って渡すと前を見据えて 雪月は魂魄の街へと繋がるあの鳥居の前へ 「やはり来たか、雪月」 その下で雪月を待っていた人の影 無感情な声が向けられ、姿がはっきりと見えてくる 「御頭首……」 やはり立ちふさがる彼に 雪月は最早躊躇いなどなく刀を抜いて向けた 「退いて下さい」 語る事はせずただそれだけを低く呟く 相手は肩を軽く揺らしながら 「……ヒトに就くか。雪月、それはあまりにも愚かしい選択だ」 行って終りに刀が振って下ろされ 刃が重なる金属音 視線が、嫌でも間近で重なる 「今日、人と花弁との境は消える。そうなれば最早ヒトなど無用。自ら滅び行くのを待てばいい」 「それだけは絶対にさせない。例え貴方を殺す事になったとしても」 「無駄だ。お前一人で何が出来る?たかがクグツの分際で」 相手の顔に浮かぶ嘲笑 ソレは見るに随分と不愉快な表情で 刃を返し相手との距離を取った 「雪月、ヒトなど捨てよ。お前は元よりあの方に造られたクグツ。大人しく従っていればいい」 「お断りします」 例え自身がヒトでなかったとしても これまでヒトとして生きてきた事を、そしてヒトとして生き続ける事を否定されたくはない 「やはりそうか。ならば仕方無い」 これ以上話す必要はない、と一方的に話を切った、 「ならば諦める事だ。この世は、私達の物に……」 嘲笑混じりに吐き捨て、相手が踵を返した、次の瞬間 音も静かに雪月が刀を抜いて 油断に無防備となった背後から、首を斬って断つ 転がる首、だが相手は果てる事はなく尚も笑う事を続けていた 「……首を落とした程度で殺せると思ったか?言ったろう?私達は死人。お前如きに殺せるはずはない」 喋り続けるその様は見るに不気味で ならばいっその事頭ごと砕いてやろうと脚を回して だが、それは寸前で叶わなかった 「……よう雪月をここまで導いてくれた。草臥れたであろう?もう休むが良い」 目の前に沙羅双樹が突然に現れ 生首を抱き上げると優しく撫でてやる 沙羅双樹の労いにに、相手は素直に返事を返し そしてその身全てを花弁と化し何所へともなく舞っていった 「秀貞、こちらへ。燦々と舞う花弁、綺麗であろう?」 見るが良い、との沙羅双樹の声に その傍らへ人の影が現れる 「雪月、お前も。どうせ人は皆滅ぶ。妾はお前を滅ぼしとうはない。さぁ、父と母の元へ帰ってくるがよい」 傍らに立つ男の腕を取りながら、彼女の表情は至福に満ちる だが雪月が警戒を解く事は当然に無く 腰を低く落とし、刀を構えた 「お断りします。それより、そちらの方は柴田の御頭首とお見受けしますが」 その通りか、と言外に含ませれば、沙羅双樹は更に笑みを深くし 男へと、身体を密着させていく 「その通り。こ奴は柴田 秀貞。妾の伴侶にしてお前と月花の父親ぞ」 微かに水音を立て唇を重ねれば その背後に突如として桜の巨木が現れる 満開に咲き乱れる花弁 それらは皆、淡い薄紅などではなく真紅の色で 辺りが途端に朱に染まった 「……咲き乱れるがよい。この世を妾達の物とする為人を殺めよ」 沙羅双樹の声にまるで従うかの様に 花弁が一斉に舞って散る 至る所から人の叫ぶ声が聞こえ始め、雪月は沙羅双樹を睨めつけた 「……恐ろしい顔をする。何故じゃ?ヒトはお前たちを殺した。恨むべきは妾ではない、ヒトぞ」 沙羅双樹が言って終わりに、秀貞が土を蹴る 素早く間合いを詰められ、振って向けられる刀を何とか構えた刀で防いで 直に受け止めたソレは、到底亡者のモノとは思えぬ程重々しいものだった 「従え。沙羅双樹こそこの世の理だ!」 秀貞の怒号と共に、足下から突如として花弁が現れて 見るに柔らか気なソレは、その見た目に反し酷く硬く雪月の皮膚を切り裂いていく 前へ |次へ |
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