《MUMEI》

「行きます!」


私は、一緒に答えようとした俊彦の口を押さえながら答えた。


…この時間に俊彦と二人でいることを、祖母には知られたくなかったから。


《村居さんは大丈夫なの?》


「はい、彼のお店も私の職場と定休日が同じだから、大丈夫なんです」


そのことを、この時は感謝した。


祖母は安心して、『予定が決まったらまた連絡するわ』と言って、電話を切った。


「やった〜!」


「…うん」


俊彦の腕の中で、私は幸福だった。


三枝さんは、私が彼氏を作っても、『当たり前』だと言ってくれた。


山田家の女性は早婚で、三枝さんも、短大を卒業してすぐに結婚していた。


同じ年頃の私が結婚すると言っても、反対はしないような気がした。


だから、私達は軽い気持ちで、三枝さんの家族と会う約束をした。


その日。


私達は幸せな一日を過ごした。


本当に、本当に、幸せだった。


夕方、『クローバー』に帰ると、咲子さんがバレンタインイベントで、『麗子と孝太君、いい感じだったわよ』と教えてくれて、更に嬉しさが増した。


(これでもう大丈夫)


そう思っていた…

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