《MUMEI》

(いきなりこんなスパルタで大丈夫かよ…)

ユキヒロは練習後不安を抱いていた。

突然決まった王者聖龍との試合。

クロの練習方針。

(確かに練習は必要だと思うけど、いきなりすぎるよな…)

ユキヒロの心配は他の部員にも抱かれていた。

それぞれが同じ不安を抱いている。

誰もクロの意図には気付かなかった。

「クロさん?」

「ん?」

「何か昨日と違ってスパルタでしたね。やっぱ少数精鋭だし、体力強化ってとこすか?」

「まぁ…それもあるけどさぁ。」

「…?」

それは翔太にとって意外な返答だった。

「だってやっぱスタミナはそんなすぐつくもんじゃないからね。今のメニューは毎日やんなきゃだめだね。」

「それはそうですけど、聖龍相手ですよ?新しい戦略考えるとかした方がよくないですか?」

「今更攻撃パターン増やしたところで聖龍には通用しないよ。付け焼き刃で勝てる相手じゃないし、今のあいつらじゃ大した攻撃パターンも作れないし。」

「じゃあ特に聖龍は意識してない練習法ってことすか?」

「いや。技術は2日じゃ向上しなくても、気持ちは変わる。」

「…?」

「声出してればやっぱ気持ちって変わるんだよ。」

「なるほど。」

「あと…」

「なんすか?」

「たった2日でも厳しい練習やると、自分は上手くなったんじゃないか?って錯覚することもあるし。とにかくあいつらがどんな気持ちでプレーするか。それを変える練習だよ。」

それはクロが仕掛けた魔法のような練習法だった。

「…」

翔太は疑問を抱いた。

『聖龍には勝てないだろう。』

そう言いながらもクロは勝ちにこだわっているのではないかと。

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