《MUMEI》

「そ、そろそろ、行きましょうか?」


私の言葉に、祖母は『そうね』と言い…


私達三人は、タクシーで三枝さんと三枝さんの家族が待つ和風のレストランへ向かった。


『堅苦しくなくていいわよね』


三枝さんがそう言って選んだその店は、家族向けの気軽に入れそうなお店だった。


「いらっしゃいませ」


「連れが来ている筈なのですが」


祖母の言葉に、男性店員がすぐに広めの座敷席へ私達を案内した。


「…俊彦?」


靴を脱ごうとする私と祖母とは対照的に、俊彦は動かなかった。


「…『エミ』さん?」


俊彦は、三枝さんを見て呟き


「『アゲハ』…なの?」


三枝さんは、俊彦を見て目を丸くした。


次の瞬間。


バキッ!


「キャア!」


店内に、私と祖母と三枝さんの悲鳴が響いた。


俊彦が、目の前で、初対面のはずの三枝さんの夫に顔を殴られたのだ。


「だ、大丈夫? 俊彦」


「何なの?」


呆然とする私と祖母に、三枝さんの夫ー


山本保(やまもと たもつ)さんが叫んだ。


「こいつは昔三枝をたぶらかしたホストですよ!!」

ーと。


「ち、違う!あれは…違うんだ!」

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