《MUMEI》
出会い。
翌朝…。




『おはようございます。』




いつもより出勤する時間が遅かったせいか、
先輩の千明さん(通称:ちゃきサン)が私に凄い勢いで駆け寄ってきた。




『すいません。遅くなりました。以後、気を付けます。』




怒られる前に謝る。
…これが私の特技。




『そんなことはどうでもいいよ。ちょっとおいで。』



ちゃきサンは私の頭をパシッと叩き、奥の応接間まで引っ張っていく…。




『どうしたんですか?ちゃきサン。そんな慌てて。』




『シッ!中見てみ。』




ちゃきサンに言われるがまま応接間の中を覗くと…。




部長と若いスーツ姿の男の人が見えた。




『…百瀬。……百瀬!
見た?あの人、かなりのイケメンじゃない?私のタイプだなぁ〜。』




かなり興奮気味のちゃきサン。




『…あぁ…まぁ。…で?あの人誰なんですか?』




『それが〜今日付けで南支店から異動になった“吉沢さん”だってぇ〜。
ようやくこの職場にも加齢臭以外の匂いをさせる男が登場ってことね。』




『…はぁ。』




たしかにその人はイケメンで年齢も30前後ってとこだろうか?




まぁ〜イイ感じっちゃイイ感じだけど私は苦手だなぁ〜。
まだ加齢臭の方が話しやすくていいやぁ〜。
なんて思ったけど、もちろん黙っておいた。




〜朝礼〜




(部長)
『え〜今日から一緒に働くことになった吉沢くんだ。さぁ君からも挨拶を…。』




『はい。今日からこちらに配属になりました吉沢です。一応、営業担当ですが配達にも行きます。
分からないこともたくさんあると思いますので、色々と教えてください。
よろしくお願いします。』




(部長)
『え〜そういう事だ。
吉沢くん。とりあえずデスクは百瀬くんの隣が空いてるから使ってくれ。
あっ。ちなみに吉沢くんは既婚者だから女性諸君アプローチしても無駄だぞ〜。はははっ…以上。』




(なんだ。既婚者かぁ…。)



残念そうな、ちゃきサンの顔がそう言ってるように思えた。




朝礼も終わり、私がデスクに戻ると、隣のデスクに吉沢さんが座った。




何気にチラッと見ると、




『よろしくね。』




と微笑んできた。




細身のスーツに、ワックスで立たせた髪、いかにも“イケメン”って感じ。
どう見てもこの職場には不釣り合いだなぁ〜。




…この人やっぱ苦手。




ただ、左手の薬指にはキラリと光る結婚指輪をしていることが唯一の救いだわ。




既婚者ならそんなに意識しなくて済みそうだし…。




『…こちらこそ。よろしくお願いします。』




かなり間があいたが、一応返事はしておいた。




これが吉沢さんとの“出会い”だった……。

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