《MUMEI》

「それから、母さん、…変になったんだ」


「…変に?」


私の言葉に亘君は頷いた。

「化粧や服装を気にするようになって、親父が単身赴任中に『友達と飲みに』出かけるようになった」


「それって…まさか…」


私は嫌な予感がした。


亘君は、『そうだよ』と言った。


「母さんは、『友達と飲みに』行ったんじゃない。

友達と、勢いで行ったホストクラブのナンバーワンに…

蝶子さんの恋人に会いに行ってたんだ。

…母さん、その為に、俺の高校の入学金や、家族旅行用に積立てておいた貯金や、親父が単身赴任中に置いていった生活費まで…」


「…っ!」


私は驚きのあまり、言葉を失った。


たとえ、俊彦にそんなつもりはなくても…


『三枝さんが、俊彦に貢いだ』という事実は、確かにあったのだ。


「ここまで来れば、親父だって気付く。

親父は、ホストクラブに乗り込んで、母さんを連れて帰ってきた。

母さんは、『寂しかった』て泣いて謝ってた。

母さんをそこまで追い詰めたのは、期待を裏切って…ちょっとぐれてた俺と

母さんを見ようとしなかった親父なんだ。

でも…親父は『悪いのは全部あのホストだ』って…」

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