《MUMEI》

それでは、駄目だ。


山田家の人々に認めてもらえなければ、父は結婚を認めてくれないのだ。


「私だって、幸せな結婚がしたいのよ!」


思わず叫んでいた。


幸せそうな、商店街の新婚達が、頭に浮かんだ。


「なのに、なんで、こうなっちゃうの?」


「わ、泣かないでよ!」


(泣きたくもなるわよ…)


私はポロポロと涙をこぼした。


「蝶子!」


そんな私に走り寄ったのは

「おばあちゃん…?」


祖母は泣いている私を抱き締めた。


「可哀想に。あんな男に騙されて」


「えっ、違っ…」


「何も言わなくていいのよ。結婚前に気付いて、本当に良かったわ。

あなたはまだ若いし、こんなに綺麗なんだもの」


「と、俊彦は?」


「あんな男!忘れてしまいなさい!」


…祖母のこんなに怒った表情を、怒鳴り声を私は初めて聞いた。


私の想像していた以上に事態は深刻なのだと、私は実感した。


「さぁ、行くわよ!」


「い、嫌です」


頭の中で警報が鳴っている気がして、私は私の手を掴んだ祖母の手を離した。


(俊彦は?)


「あの男は、保さんが捕まえてるわ。すぐに光二が迎えに来るわ」

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