《MUMEI》

「喜んでいる、喜んでいるぞ。ようやく此処へ、現所へと戻ってこれたことを!」
燦々と舞う花弁
その花雨に打たれながら、秀貞はひどく楽し気に笑うばかりだ
「……貴方方は、一体何が目的なんですか?」
穏やかに、だが怒気を孕んだ雪月の声
その問いに、何を今更と相手からの言葉
手の平で花弁を受け止めてやりながら
「私達は唯、現所に居場所が欲しかっただけだ。死人だからと門扉の奥に隔離されるのではなく、己が個の存在として在り続けたかっただけだ」
「それだけ、たったそれだけの為に何故人を屠る必要があるんです?」
「死人と生き人。相反するこの二者が共に在るなど、有り得る筈がないだろう」
ヒトなど滅べばいい、と吐いて捨てる様な物言い
声の最後に鳥居が派手な音を立て砕け
堺が、消え失せた
ソコから更に大量の花弁が現れ世を薄い紅で満たしていく
それはまるで、世の終焉を祝っているかの様で
目障りで仕方無い
「どうじゃ、雪月。美しいであろう?もう止めよ。無駄な足掻きなどせず妾の元へ――」
途中、途切れた声
素早く沙羅双樹の懐へと入り込んだ雪月が相手の胸元を抉りに掛った
「沙羅双樹!?」
秀貞が目を見開いて
沙羅双樹の元へと駆けて近くへ
寄ろうとした矢先に
着物の襟首が突然に引かれる
「ちょいとお待ちよ。アンタの相手は、私だ」
いつ現れたのか、秀貞の背後に現れた花魁
着物の袂に隠し持っていたのか、小刀を秀貞の首へとと押しつけ動きを止めていた
「……お前は、月花か?」
背で語りかける秀貞へ
だが花魁・月花は何も答える事はなく秀貞の首筋を斬りつけていた
飛び散る色は真紅
多量の血液を流しながら、しかし息絶える事はない
「……無駄な事を」
小刀を首へと刺したまま、平然とソコヘ立っていて
月花の腕を掴みあげると、崩壊した鳥居の残骸へと叩きつけていた
「何故、邪魔をする?私達は唯現所へと戻――」
秀貞の注意が月花へと向いていた、その隙を借り
雪月は沙羅双樹から手荒く刀を引いて抜くと、背後から彼の首を刎ねていた
転がる首、堕ちる身体
それでもまだ息絶える事はなく、首だけになっても尚秀貞は雪月を睨めつける
「……無駄だ。お前がどう足掻こうが門扉は壊れ、境は消えた。ヒトの世は花弁に覆い尽くされやがて滅ぶ」
途切れる声で未だ語る相手へ
雪月は無言で見下すと、踏みつけ頭を砕いていた
飛び散る血が、雪月を汚す
「愚かなヒトだ。貴方方は、本当に……」
最後くらい、憐れみをと
散っていった沙羅双樹らへの言葉
舞い散る花弁を暫し眺め、そして徐に壊された門扉へと手を掛ける
「雪月、アンタ何を……」
「門扉を、直します。でなければ、どちらの世も、報われない」
「直すってアンタ、まさか……!」
「自分がヒトでなくて良かったと、今初めて思いました。おかげで、門扉を直せる」
「馬鹿な事はおよしよ!アンタが戻らないとあの子が悲しむだろう!?」
段々と薄れ、消えかけていく雪月へ
月花が雪乃の存在を訴えてくる
ソレで躊躇がなかった訳ではない。だが、最早こうするしか手立てが残されては居ないのだから
「……月花。現所へと戻ったら雪乃へ伝えて下さい。(約束を破ってしまってごめんなさい)と。それから、(大好きです)と」
言いきって、雪月の姿は消えた
門扉が彼を受け入れ再生を果たし、互いの世にまた境が引かれる
生き人は現所に
死人は魂魄の街へ
全てがあるべき姿にその瞬間戻って行った
「……馬鹿だねぇ。自分一人で全部抱え込んじまって。本っ当、大馬鹿だ……」
その挟間に一人立ち尽くし、泣き崩れるしか月花には出来なかった……

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