《MUMEI》 門前払い翌朝。 「蝶子、蝶子!」 玄関の呼び鈴を鳴らす音と、聞き覚えのある声に、私は部屋を出ようとした。 「おはよう」 「…おはようございます。あの、通して下さい」 私は、目の前に立っている光二おじさんを見上げた。 「可哀想に。眠れなかったんだね」 「あの、下にいるの、父さんですよね!」 私が強い口調で言うと、光二おじさんが悲しげな顔をした。 下からは、父と祖母の声が聞こえていた。 おそらく父は、咲子さんから事情を聞いて、私の様子を見に来たのだろう。 「だいたい、あなたがついていながらどうしてあんな男を蝶子に近付けたの!」 「俊君は、いい子ですよ!」 「その『いい子』がうちの娘をたぶらかすの?」 「俊君は、そんな事しません!」 「実際、したのよ!」 二人の声は次第に大きくなっていった。 そこへ… 「まあまあ」 三人目の、華江さんの落ち着いた声が聞こえた。 この家は、防音設備が整っていないから、光二おじさんに掴まれながらも、何とか階段近くまで進んだ私にも、三人の会話が聞こえた。 「俊彦君の勤めていたホストクラブに私も昨日行ってみました」 前へ |次へ |
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