《MUMEI》
恋しさ
もうすぐ7ヶ月を迎える。外見は立派な妊婦だ。何をするにも「よっこいしょ」の掛け声がないと動けない。
今日は病院への健診の日だ。いいと言うのに聡は必ずついてくる。
「おまえに何かあったら大和に祟られる」
千尋はクスクス笑いながら必ず聡に手を引かれて歩く。
「そろそろどっちかわかるんじゃないか?」
「おにいちゃんはどっちがいいの?」
「女。びっちり俺がくっついて嫁になんかやんね」
真面目な顔で言うので余計千尋は笑う。
「大和もそう言ったかな。」
「当然だろ」
歩いていた千尋の足が止まる。
「どうした?」
千尋の顔色が悪い。
「気持ち…悪い…」 「千尋!大丈夫か?今救急車呼ぶから待ってろ!」
既に千尋の意識は遠退いていた。聡の声が大和とダブる。
「やま…と…」

病院に運ばれた千尋は即入院だった。
「妊娠中毒症です。血圧がずいぶん高くなってますね。これまで順調だったのに」
「先生、妹をお願いします!」
聡が頭を下げる。
「このまま入院して様子見ましょう」

眠ってる千尋は夢を見ていた。千尋と大和に抱かれた赤ちゃん。とても幸せそうである。
(千尋、ありがとな。かわいい赤ちゃんだよ。)
大和は嬉しそうである。
(俺、幸せだよ。千尋と赤ちゃんと一緒にいられて)
(赤ちゃん、落とさないでよ)
(俺怖いよ、千尋代わってよ。)
赤ちゃんを千尋に渡すと、大和は歩き出した。
(どこ行くの?)
大和はにっこり微笑むだけ。
(大和!大和!)
その声に驚いたのか赤ちゃんが泣き出した。千尋はどうしていいかわからずオロオロしていた。
(泣かないで。ねえ大和!)
千尋は手を差し出した。
「千尋、やっと目が覚めたのね」
母だった。父も兄もいる。
「病院?どうして?大和は…」
語尾が濁る。
聡がそばに来て、
「覚えてないか?病院行く途中、倒れたんだよ。」
「え?赤ちゃん!赤ちゃんは?大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。大丈夫じゃないのはおまえ。中毒症だって。しばらく入院」
千尋は胸を撫で下ろした。
「安静だぞ。フラフラすんなよ」
「わかってるよ。」
少しふて腐れてみる。
大和の両親も来ていた。短い時間だが顔を合わせ、千尋に負担をかけてはと帰って行った。
入院生活に入り、千尋の大和を想う気持ちが大きくなっていった。
恋しい。不安な今、一番傍にいてほしい。大和の日記帳を取り出しては、そこに大和の心が宿ってるかのように抱きしめる。
「大和…」

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