《MUMEI》
― 序章 後付けの言葉 ―
歩いていては分からないほどゆっくりと動く雲。

その雲を流す風と、雲を抱く深い空。

夕刻に傾いた日は空を塗り、雲を染めて、街を茜色に照らしている。

そんな夕暮れの中、春風香る一本の道を一人の男の子がとぼとぼと歩いていた。

足を止めてため息をもらし、空を仰ぐ。

その男の子はまた、深いため息をついた。

背中を押すように吹いた一陣の風に目を瞑る。

吹き抜けて終わるはずの風が、いやに長く感じた。

風の音しか聞こえない。

そう思った瞬間に、耳へと澄んだ鈴の音が届く。

ハッとして目を開けた先には、赤い糸で編まれた紐を結んである鈴が落ちていた。

興味本位で拾い上げてみると、小さくも存在感のある透き通った音を立てる鈴。

手元で鳴った音へ応えるように、遠くで鈴の響きが聞こえてきた。

その響きに惹かれるように、自然と音の方へと足が進む。

ふと気が付いた時には、目の前に大きな公園が広がっていた。

さっきとは打って変わって吹いた心地よい風。

頬や髪をなでてい抜けていく風は、桜を舞わせ薄紅色に色づいていた。

空から舞い降りてきた一枚の桜を、優しく受けようと手を広げる。

しかし花びらは風を受けて手を掠め、そっと地面に落ちた。

虚しく開いたままの手を閉じて、風がそよぐ方へ目を向ける。

沢山の花びらと戯れる風の向こうには、ひっそりと桜の木が立っていた。

視界のすべてが茜に染まり、桜の花びらが後ろへと消えていく。

聞こえてきたのはあの鈴の音――――



作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫