《MUMEI》

茶の間では、父さんを囲んで親戚の皆が勢揃いしていた。



「カツオ、花子さんはどーしたんだ?一緒じゃなかったのか?」


父さんが呆けた口調でワカメに問いかけていた。



「お父さん、花子さんはもうこの家には来ないのよ…。離婚したの…。」


ワカメは父さんを優しくなだめる。


「あぁ…そうだったか…。

…ところで母さんは何処だ?…母さんやー!」



思えば昨日も、その前の日も同じやりとりを繰り返していた。



父さんの痴呆症は、かなり進行している…。


あと数ヶ月もすれば、僕とワカメの顔も忘れてしまうかもしれない。



ワカメはニコニコしながら、そんな父さんの口元から垂れた涎をタオルで拭っていた…。

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